神話―古事記
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古事記の話をしたいと思います。
奈良時代の同時期の日本書紀もありますが、こちらは時の政府が編纂しました正式の国史です。
古事記も日本の歴史を記録したものではありますが、神代にさかのぼる天皇家の歴史で、神話が主体です。
天つ神、神武天皇から推古天皇までを語り、実在の天皇も語られています。
今回は天つ神の時代、即ち神話のところをお話したいと思います。
正式の国史の日本書紀を編纂しながら何故同じような歴史書を編纂したのか分かりません。
諸説あります。
日本書紀は国の歴史書であって、古事記は天皇家の家系を祖神から解き明かす書である。
日本書紀を補う付属書である。
古事記は勅撰(天皇の命令)の書ではなく平安時代に誰かによって編纂された偽書である。
等ありますが、ここでは現在の教科書にもありますように、稗田阿礼が天武天皇の指示で編纂を開始し、後に元明天皇が太安万侶に編纂を指示し、二人で完成させたことにします。日本書紀より8年早い和銅5年(712)です。
日本書紀が日本の公の国史ですので、古事記はその後忘れられていたのですが、江戸時代に入り、国学者本居宣長が古事記の意義を唱えたのです。
以後古事記は日本中で有名になります。
特に神がった天皇家の歴史はクローズアップされます。
そして明治を迎え、明治政府は天皇家を国の中心に据えます。古事記をバイブルにします。
天皇家の神話は現実の話にされます。
明治、大正の頃は古事記は神話でお話の世界で日本史と関係ないと言っても平気でしたが、昭和の軍国時代に入り、そのようはことを言う歴史学者は監獄に入れられるようになりました。
太平洋戦争後はその反動で古事記及び日本書紀は歴史学会から排除されます。
教科書でも古代に作られた物語との紹介だけで内容についての記述はありません。
従って戦後に小学校教育を受けた80代半ばまでの人は古事記の内容を知らない人がほとんどです。
戦前は小学校でストーリを教えました。
古事記の原文は漢字で書かれています。しかし純粋の漢文ではなく、変態漢文と言われています。
例えば変な漢文は「多陀用幣流」(ただよえる)、「吐散」(はきちらす)の類で漢文とは言えない表記もあります。
表示は表音式(万葉仮名風)で例えば「伊邪那岐」(いざなぎ)、「須佐之男」(すさのを)等人名に多いです。表意式(訓読み)は「高天原」(たかまのはら)、「天之三柱」(あめのみはしら)等々多くあります。
もちろん純粋の漢文もあります。
原文は大変読みづらく、読み下し本が戦後発行されました(倉橋憲司・武田祐吉校注「古事記 祝詞」岩波書店)。ページの上にびっしり注があり解説されています(頭注)。しかし読み下しは漢文を日本語流に読み直したもので未だ難解です。
そこに現在口語訳が出版されました。三浦祐之「口語訳 古事記」です(2002年)。
人気のない古事記の出版物としては当時話題になりました。
現代口語文に訳していますのでまあ読みやすいのですが、それでも欄外下の
注を読まないと理解が難しいでしょう。もちろん訳本ですから著者の意見で意訳されています。
古事記そのものは上中下に分かれています。上巻は神代の時代(いざなき・いざなみから天孫降臨まで)、中巻は神と人との混在時代(神武天皇から応神天皇まで)、下巻は人の時代(仁徳天皇から推古天皇まで)です。
前置きが長くなりました。以下に古事記の神代の部分の概略を記述します。
{天と地の始まり}
高天原(たかまのはら)に神神が現れます。神代七代の末にイザナキと妹のイザナミが現れます。
この兄妹の神が子の神神と日本列島を作ります。
映画「男はつらいよ」で寅さんの口上でもありますね、“・… 島の始まりが淡路島、泥棒の始まりが……”の通り、
最初に生まれたのは淡路島で次いで四国、隠岐島、九州、壱岐島、対馬、佐渡、本州でこれを大八島と言います。後で瀬戸内海と五島列島を生みます。
生んだ神神も後年それぞれの国の豪族の祖神となります。
ところがイザナミは火の神を生んだため高天原を去って黄泉の国(よみのくに)に行ってしまったのです。
イザナキは黄泉の国へ追いかけて行き、連れ戻そうとしてイザナミを怒らせ、黄泉の国から逃げ帰ってきます。
そしてイザナキはアマテラスオオミカミ(天照大御神、この後はアマテラスと略します)、ツクヨミミコト(月読命)とタケハヤスサノヲ(建速須佐之男命、この後はスサノヲと略します)を生みます。
お父さんのイザナキは3人の分担領域を決めます。アマテラスは高天原を、ツクヨミは夜の世界を、スサノヲは海原を治めることでした。
スサノヲは不満で根の堅洲国(海底につながる地下世界)を治めたいとぐずります。イザナキは怒ってスサノヲを近江へ追放処分にします。
{高天原でのアマテラスとスサノヲ姉弟}
男神の内長男の息子のアメニキシクニニキシアマツヒコヒコホノニニギが初代神武天皇の祖神となります。アマテラスの嫡孫です。スサノヲの孫とは言われません。スサノヲの子は女神とされます。
スサノヲは高天原で蛮行をくり返します。アマテラスは怒って天の岩屋に入って戸を閉めて出てこないのです。
辺りは真っ暗になり神神は困って踊りを見せたり、鏡を見せたりして、戸の隙間からアマテラスを引き出しました。
スサノヲは高天原から追放処分となりました。
ここら辺は童話で残っています。
{スサノヲ出雲国へ降りる}
高天原を追放されたスサノヲは出雲国へ降りてきたところ国つ神のアシナヅチの娘がヤマタノオロチ(八岐大蛇)に食べられるところでした。
スサノヲはオロチを退治することにしました。オロチは八つの頭を持ちます。
酒船八つに酒を入れ、それをオロチに飲ませ、泥酔したところでスサノヲは斬って殺しました。
尾から出て来た剣はアマテラスに献上します。これが三種の神器の草薙の剣です。
スサノヲは助けた娘と結婚して出雲に住みつき支配しました。
めでたし めでたし。これも童話になっています。
{オオクニヌシノミコト}
スサノヲの6世の孫がオオクニヌシ(大国主、オホナムジ)です。
兄弟80人と末弟のオオクニヌシが旅をしている時にワニに毛をむしり取られたウサギに会い、スサノヲが助けてやりました。
ここは「因幡の白兎」の童話になっています。
オオクニヌシは兄弟に殺されますが、生き返り、黄泉の国に行きそこでスサノヲから試練を受け、耐えてスサノヲに認められ、スサノヲの娘と結婚して、
出雲を支配しました。
{国譲り}
高天原を支配しているアマテラスは地上の葦原の中つ国も欲しくなりました。その中心は出雲国で支配はオオクニヌシです。
征服すべく長男のアメノオシホミミを送りましが、出雲に到達できず、次に二男のアメノホヒを送りますが、オオクニヌシになびいてしまって帰って来ません。又次にアメノワカヒコを派遣しますが、オオクニヌシに味方して翻って歯向かいましたので殺します。
最後に高天原の剣の達人タケミカヅチを派遣し、オオクニヌシを降参させます。オオクニヌシより高天原に届くような高い御殿を建てて住まわしてほしいとの願いがありました。
次男のタケミナカタは諏訪の大社の神になりました。
上巻はこの後天孫降臨までありますが、ここまでに致します。
戦後は一切記述はありませんでしたが最近になって物語として載せてはと意見があり一部教科書に載せましたが、教える教師が古事記の教育を受けていませんので授業が難しいようです。
以上
2022年8月14日
梅 一声 |